お役立ち経営情報 2015年6月

監査担当者日記 〜番外・総務部編 沙也の留守番〜

会計事務所の日常とは? ※ フィクションであり、 実在する人物・団体とは一切関係ありません

「はい、税理士法人アイ・パートナーズ 戸田でございます!」
鳴り響く電話にいち早く反応したのは、アイ・パートナーズの総務部新人社員、戸田沙也。
2週間の新人研修を終えた沙也は、「事務所の顔」としての務めを果たすべく、誰よりも早く電話に出ることを自らに課していた。
英語学科出身の沙也は会計事務所の専門知識である税法はおろか、「入り口」ともいえる簿記にすら触れたことがない。ひょんなことから就職した会計事務所で交わされる先輩や上司の会話はちんぷんかんぷん。「これって日本語なワケ?英語の方がずっとイイわ…」、英語で鳴らした学生時代に現実逃避する沙也だった。

そんなある日、沙也の目の前に「災難」は訪れた。総務部の先輩たちが研修やら急用とやらで出払い、総務室に残されたのは新人・沙也だけ。しかもタイミングが悪いことに業務部門の監査担当者もほぼ外出。心細いことこの上ない状況に、沙也にできることは一つだけだった。
「皆が戻るまでは、込み入った案件などありませんようにっ!」、普段から敬虔な信仰心を持たぬ自分の願いが果たして神様に届くのだろうか、一抹の不安を抱きつつも祈りを捧げたのだった。

長い1日も終業時刻まであと30分。祈りは届いたかに思われた沙也の安堵は、切り裂くように鳴った一本の電話で緊張に変わった。反射的に電話を取った沙也に、相手は捲し立てるように話し始めた。  『もしもし、私東京都健康福祉局医療安全課第5係主任の緑川と申します。石渡先生はいらっしゃいますでしょうか』
「えっ、ナニナニ?早口すぎて分からないよ」思わず口にすることは我慢し、心中で悲鳴をあげる。混乱で緊張は高まるばかり。メモを取る手は全く動いていない。それでも辛うじて、『お世話になっております。ただ今石渡は外出しております』とだけ絞り出す。新人研修の賜物か、「頭ではなく口は覚えてた」、などと一息ついたのも束の間だった。

『そうなんですか。ちょっと急いでるんですよね。お戻りは何時ごろでしょうか』相手は質問を重ねる。
『しょ、少々お待ちください。ええと、あと30分ほどで帰ってくることになっているのですが…』いよいよ言い淀む自分が情けない沙也だったが相手は容赦ない。
『そうですか。では、なるべく早く折り返しお電話を下さるようお伝え下さい。』

ガチャという音とともにほぼ一方的に電話が切れたところで沙也は我に返った。手元のメモに記入された文字は「東京都」だけ。懸命に記憶を辿るも、どの部署の誰が電話をかけてきたのか全く思い出せない。仕方なく「東京都庁男性からお電話です。お戻りになったら折り返しお電話をお願いします」とメモを残した。

『戸田さん、ちょっと来て!』その電話から間もなく事務所に戻ったアイ・パートナーズ代表社員・石渡哲哉は、荷物を置くや否や沙也を呼んだ。その渋い表情に、沙也は身を縮ませるしかなかった。
『もらった伝言だけど。これ、なに?』
『な、なにとおっしゃいますと…』
『私は東京都庁の誰に折り返せばいいの?このメモじゃ分からないよ。用件はなんだったの?』

またしても混乱で言葉を失う沙也に、哲哉は続けた。『しかも、アイ・パートナーズには石渡は2人居るよね。その人は私宛に電話を掛けたのか、確認した?』
その瞬間、ようやく沙也の脳裏には会長・石渡宏道の顔が浮かんだ。パニック状態だったせいで、会長と代表が同じ姓であることさえも頭から抜け落ちていた。
『石渡先生、とおっしゃっていたことしか覚えていません…。不十分な対応をしてしまい、申し訳ありませんでした』消え入りそうな声で答え、うつむく沙也に、哲哉はゆっくりと言葉をかけた。

『電話を取り次ぐときは、誰がどんな用件で掛けてきて、不在であるならばどこに折り返すのかまで確認するのが最低限の仕事だよ。何百、何千人もの人が働く官公庁が相手なら尚更。今回は幸い用件の心当たりがあるけれど、そうでなければ連絡がつかないことにもなりかねないよね。それが原因でお客様に不利益が及ぶとしたらどうだろう?アイ・パートナーズに電話をかけてくる人は、皆何かしらの大切な用事があるんだ。どうでもいい話をするためじゃない。そこのところは念頭に置いておかないとね。』

デスクに戻った沙也は電話機を見つめていた。「たかが電話だと思ってたんだ。大事な何かを伝えるための電話だったのにね。」沙也は眼を閉じると、そっと伸ばした手を電話機に置いた。大事な電話の先鋒に立つ者が携えるべき思いを、今この瞬間に刻みこむために。 (おわり)


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